強引同期と恋の駆け引き
「なんと! 女子の皆さん聞きましたか~? こちらのイケメンさん、まだお独りのようです」
空気を読まない司会者が耳障りなハウリングを起こしながら叫べば、黄色い悲鳴が聞こえてきたのは、戸嶋さんに久野が連れて行かれた方向だった。
チッ。鋭い舌打ちが斜め真後ろに立つ私だけに聞こえ、ざわめきに紛れるような小声で届いたのは、
「男が男にするのは、セクハラじゃないのかよ」
という、苛立った彼の独白。
すぐに下世話な方へ持っていこうとする輩に対しての、その意見には激しく同意するけれど、さっきの自分の行動はどう説明を付けるつもり?
腑に落ちない気持ちをドレスのリボンをいじくることで紛らわせていた。
「では! いよいよ、賞品の贈呈でーす」
スピーカーから高らかに鳴るファンファーレ。いったいどこまで手の込んだ準備をしたのかと、幹事とは名ばかりの出欠係の私は呆れた。
「おめでとうございます! 豪華お食事付き老舗温泉旅館に、一泊二日ペアでご招待です」
名を聞けば、多くの人が「あぁ、あの」と言うほどには有名な宿の宿泊券が、派手派手しい大きな祝儀袋に入れられて、満面の笑みを振りまく安川夫妻の手から、久野の手に渡されようとしていた。
会場のみんなが拍手の準備で手のひらを合わせていた、その時。
グイッ!!
急に二の腕を掴まれてつんのめりそうになった私の目の前が暗くなる。
鼻に届いた覚えのある香りで、どういうわけか自分が久野の腕の中にいると気がついた。
焦って離れようとした頭の後ろが大きな手で押さえられていて、鼻先がスーツの胸に埋もれる。
抗議のために吸い込んだ息を、耳のすぐ傍で張られた低音の声が紡いだ言葉でそのまま飲み込んでしまった。
「そちらは結構です。その代わりに『これ』いただいてきますんで」
『これ』と言ったときに、頭に添えられていた手に力が加わり、賞品の代わりに彼が望んだものを悟って、頭から血が引いた。