強引同期と恋の駆け引き
しんと静まりかえった会場。
緩められた手に恐る恐る顔を離せば、久野は「行くぞ」という囁きとともに強引に手を搦めてきた。
唖然とする一同の間を、さながらモーゼのように出口へと向かって歩く。
強く握られた手を振り解くことも敵わず、私は転ばないようにヒールの脚を動かすのに精一杯で。
出入り口の扉の閉まる音が背中で聞こえたとたん、内で沸き起こったどよめきが廊下まで聞こえて振り返る。
それでも無言の久野は手を離してはくれず、そのままエントランスホールへと続く大階段を駆け下りた。
「ねえっ!」
私の問いかけにも応えずに、久野は無言で突き進む。
ドアマンが恭しく開けた扉を抜けると、春まだ浅い夜の風に晒された。
ホテルの敷地を出て久野が向かった先は、ホテルに隣接する公園。まだ一分咲きにもなっていないのに早くもライトアップされ、寒空の中、細やかな宴会をしている人までいることに驚いた。
その公園を縦断してなおも歩みを止めない彼の長い脚が作り出す歩幅に、とうとう私の脚が限界を超える。
「きゃっ!」
石畳の小さな凹みに細い踵を取られて膝からくずおれると、さすがに足が止まり振り返った。
「なにしてんだ」
「なにって、こっちの台詞よ。これはいったいなんのマネ?」
強かに打った膝の痛みと久野の理不尽な行動で、立ち上がる気力をなくして、ペタンと座り込んだ地面から見上げると、彼の背後に高層ビルの灯りが星みたいに輝いていて。
「もう、無理。ズルいよ」
ストッキングに空いた穴を隠すように作った拳へ瞳と嘆息を落とす。
「――悪い」
と。急にふわりと浮いた私の身体。
え? なに?どうなってるの??
「暴れるな。もう少しだから」
頭の上に落ちてきた声で、自分が久野に抱きかかえられているのだとようやく気づく。
壁ドン、顎クイに続いて、今度はお姫様抱っこって!?
パニックになる私にお構いなしで、人影も照明も少なくなっていく公園をさらに奥へと進んだ。