強引同期と恋の駆け引き
「見合いなんかする必要はない。ましてや、脳みそがスポンジケーキでできている佐藤なんかもってのほかだ。
いくら甘味好きだからって、名前だけで相手を決めるほど片倉はバカじゃないだろう?」
「はい? なんで佐藤くん……ああっ! 砂糖ね。そんなわけないじゃない。っていうか、佐藤くんにずいぶんじゃない?」
「庇うんだ。――やっぱり付き合ってるのか?」
キュッと眉根を寄せ憂い顔をみせる久野は、夜桜を背負っていやに色っぽい。
「ま、まさか」
思わず後退ろうとすると、頬から離れた片手でさらに腰を引き寄せられる。頬に残る手が顎までなぞるように伝い降りてきて、ゆっくりと持ち上げられた。
「だったら、他の男の前で無闇に目を瞑って口なんか開けるな。なにを突っ込まれるか、わかったもんじゃない」
「バ――っ!?」
とんでもないことを言葉にした久野に反論しようと開けた口に、彼の唇が重なる。と同時に、息継ぎができないほどの深いキスに襲われ、脚の力が抜けた私は、気がつけば、スーツの胸にしがみついていた。
「な、な……」
ようやく唇が離れ、酸欠の金魚のように肩で息をしていると、久野がニヤリと片側の口端をつり上げた。
「また足を踏まれるかと思った」
「もう。なんで、こんなことばっかりするのよ」
半分涙声で襟元を握り締める。皺になろうが、そんなこと知ったこっちゃない。
「逆に、なんでまだわからない?」
アップにまとめてあった私の髪の後れ毛を、指に絡ませ弄びながら呆れた声を出す。その指先がときおり首筋をかすめ、ゾクリと粟立った。
「片倉が他の男と付き合ったり女子を焚き付けてくるたびに、俺はおまえに男としてみられてないんだと思ってた。だから、片倉が薦めたコと付き合ったりもしてみたけど」
え? 顔を上げた私に久野が苦笑いを返す。
「やたらと気ばっかり疲れて、 気がつくと自販機の汁粉を探していたりする自分がいて。結局は長く続けられなかった」