強引同期と恋の駆け引き
「気づいたときには、一本百円もしない汁粉缶とか、薄っい居酒屋の酎ハイでも満面の笑みを創る片倉が傍にいることが、俺の中で当たり前になっていた」
ん? なんだか風向きが……。
「小洒落たバーへ連れて行けとも言わないし、フレンチのフルコースが食べたいだの、誕生日にはなんとかのバッグが欲しいなんて、面倒くさいこと言わなそうだし」
確かに、小さなグラスにちょっとだけ入った綺麗な色のカクテルよりもジョッキになみなみと注がれたウーロンハイとか、ちまちまとお皿に盛り付けられたコース料理より、こってり脂の豚骨ラーメンのほうが好きかも、とは思ったりもするけど。
「それって、安上がりな女ってこと?」
打って変わって胡乱な目つきになった私に、あきらかに『しまった』という表情を見せる。久野は、んんっとわざとらしい咳払いと、私の頭を抱え込むことでごまかした。
「もちろん、そこまでしなくてもって心配になるくらい真面目で丁寧な仕事ぶりや、端からみていると嫉妬しそうになるほど面倒見のいいところもちゃんとわかってるし、尊敬もしている」
えっと、これは褒められているんだよね? 下げられたような上げられたような。頭の中が混線していると、トーンを抑えた声音で耳元をくすぐられた。
「片倉といても疲れないのに飽きない。ずっと一緒にいるなら、最高の相手じゃないかって。だから」
ピクッと跳ねた肩ごと強く抱きしめられて、
「――結婚しよう」
「……いき、なり?」
驚きに詰まった息でやっと絞り出した私の答えが気に入らなかったのか、久野が耳を甘噛みする。
「ひゃあっ!」
飛び退いて、真っ赤になった熱い耳を押さえると、不遜な顔で見下ろされた。