強引同期と恋の駆け引き
 BINGO! 


 ◇


「あっ!」

できれば気づきたくなかったことを思い出して、私のテンションがだだ下がる。

「これから戻ったら、どうなるの? 私たち」

主役そっち除けで飛び出してきたお祝いの席。荷物もそのままだし、逃げるわけにもいかない。そのうえ、明日のこともあるんだよ?
格好の餌食になることは目に見えている。それなのに久野は満足そうに頬を緩めた。

「ちょうどいい。婚約発表でもしておくか。そうすれば、当分の虫除けにもなるだろうし」

「え? ちょっと待って。そりゃあ、久野はもう異動しちゃうから、少しの我慢でいいかもしれないけど」

どれだけ恥ずかしい思いをするのか、想像もできないし、したくもない。

「元を正せばおまえが悪いんだからな。二次会前に連れ出そうと探してみれば、やれ見合いだ、男がいるだと気を揉ませ。挙げ句の果てには逃げ出しやがって」

そんなの知らないし、聞いてない!!

「わざわざこんな場所まで引っ張り出して、甘いもの好きの片倉仕様に合わせてやったんだから、冷かしややっかみくらい辛抱しろ」

「なにそれ? どういう――」

ビューッと。
突如吹いたビル風に桜の枝が煽られて、私たちは薄紅色の花吹雪に包まれる。

一足早く春に祝福を受けたような気がして、隣の大きな手を握り締めた。

「知ってるか? 彼岸桜の花言葉は『心の平安』だ」

得意げに言った久野のしたり顔に、私の脈はまた速くなる。


なんだかかえって『心の平安』から遠ざかったような気がしないわけじゃないけれど、このドキドキは、私にとっては心地好いリズムを刻んでいく。



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