強引同期と恋の駆け引き
端からみれば、遠回りをして無駄な時間を過ごしたように思えるかもしれない。
だけどきっと、私たちにはお互いのリズムをひとつに揃えるために必要な期間だったんだろう。
ゆっくり時間をかけ一つ一つ確実に、久野が私の心を埋めていった。
それは長い指だったり、クスッと笑ったときに微かに上がる片方の口端だったり。当然のように差し伸べてくれる手だったり。
まったくてんでバラバラに。なのにいつの間にかたくさんのリーチがかっていた。
だけど『いま』を失うのが怖くって、最後の一つを埋められずにいた私のカードを揃えてくれたのは、やっぱり久野で。
ビンゴのご褒美は、あまりにも大きくて重たいけれど、とっても暖かくて甘かった。
「あとになってから、やっぱり温泉の方が良かったなんて言わないでよ」
絡ませた手に力を込めると、より強く握られる。
「生ものは返品不可だろうが」
「……腐る前に食べてね」
言ってしまってから失言に気づいて、ぶわっと一気に熱が顔に集まったけど、もう後の祭り。
久野の瞳がイタズラな光を帯び、にたりと両端を上げた口で「もちろん」という了承の言葉を発したあと、息がかかるくらい耳に唇を寄せられた。
「ちゃんと残さず食べるから安心しろ。とりあえず、放置されていた十年分をまとめて頂いておこうか?」
抱き寄せた腰を過分に密着させてくる久野を、必死で押し返す。
お願いだから、今後の心臓のためにも糖分は控え目でお願いします!
私はまた新しく『久野真弘』というカードを渡された気がして、いったいどんな新たな目が出るのか少しの期待と大きな不安に襲われた。
でもとりあえず。
家に帰ったら、送別会で久野に渡す色紙に桜色のサインペンで書き込もう。
『 今後とも よろしくお願いします 』
―― 完 ――