強引同期と恋の駆け引き
それなのに。
偶然とは恐ろしいもので、彼と私は再会を果たす。
それは、緊張でガチガチになっていた面接会場。
膝の上で握った両手を見つめながら、必死に頭の中で受け答えのシミュレーションをしていると、少し遅れて隣の席に着いた人の資料をめくる長い指が目に映った。
たったそれだけなのに、どうしてその指が彼のものだと気がついたのかなんて、はっきり言っていまだにわからない。
でも、そのときの私は揺るぎない確信をもっていた。
「こんにちは」
「こんにちは――っ?」
小声で交した挨拶に反射的に応え書類から上げた顔の涼やかな眼が、僅かに見開かれる。
「……しる、こ」
まるでそれが私の名前のように呟かれれば、覚えていたんだという驚きと、乙女にソレはないでしょうという失望がない交ぜになって、思わず苦笑い。
腕時計に目を落とし、まだ開始まで少し時間があることを確認してから、控え目に訂正を入れた。
「私の名前、『汁粉』じゃなくて『片倉佐智(さち)』っていうの。もしかしたら同僚になるかもしれないから、余裕があれば覚えてもらえる?」
「あ? あぁ。久野。久野真弘(まさひろ)。……にしてもすごい偶然だな」
前回と同じ会社ならいざ知らず、ここはまったく別の会社。
一瞬だけ脳裏をよぎった『運命』なんて陳腐な言葉を、頭を振って追い払う。
同じような職種を選んでいるのなら、あながち偶然とは言い切れないのかもしれない。
けれど、それにしたってかなりの低確率だろう。
就活の神様のイタズラに、なんだか可笑しくなってきていた。