強引同期と恋の駆け引き




「え? 志望動機?」

学生が集まり始めていた会場にサッと視線を巡らせた久野は、私の耳元に口を寄せて訊いてきた。

「そう。なんかこう、考えれば考えるほどありきたりになるだろう? どこへ行っても、同じようなことしか言えないんだよな」

「そうなんだよねぇ」

採用時の重要項目ともいわれているそれは、いつの時代の就活生にとっても変わらずに頭を悩ます存在だ。

「あっ! でもここの会社だったら、一つだけ他と違うことが言えるわ」

興味深げに身を乗り出した彼は、さらに潜めた私の声を捉えるために顔を近づけてくる。

面接への緊張とは違う胸の高鳴りに戸惑いながら、間違っても周りに聞かれないように口元に両手を当てて囁いた。

「この会社の自販機ね、一年中、温かいお汁粉があるの」

ぶはっ!
大きな両手で押さえても漏れ出た吹き出し笑いに、周囲の視線が集まって、久野はわざとらしく咳払いをしてごまかす。

でも、目尻には堪えきれなかった笑い涙が一粒浮いていて、それを親指でグイッと拭った。

なおも治まらない笑いを押し殺しながら向けられた笑顔は、それまでのどこか取り澄ました様子が消えて、ともすれば年下の少年のような屈託のないもので。

「そんな志望理由、初めて聞いた」

震えの残る声で言われれば、私はムッと口を尖らす。

「夏場に探すの大変なのよ。冬の間に箱買いしておいても、真夏にはなくなっちゃうし」

「箱買いっ!?」

またも素っ頓狂な声を上げそうになった彼の口をとっさに塞ぐ。
こんなところで悪目立ちして不採用にされたら、泣くに泣けないじゃないの。

でも今度は、手のひらに触れた思いのほか柔らかな彼の唇の感触に、私の方がどぎまぎする番だった。


そんなこんなで余計な力が抜けたのか、奇跡的に面接も上手くいき、無事第一志望だったこの社から内定がもらえた私は、入社式で三度目の再会を果たした久野を発見したとき、もう笑うことしかできなかった。




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