私をみつめて
視線
「お前、いつも俺の事みてるよな?」

それは、珍しく残業をして、フロアーに一人残った日の事。

私が帰り支度をしていると、既に帰宅していると思っていた彼の声が背後から聞こえた。

「え…?」
私は彼の言葉に固まった。

「だから、お前俺の事、ちらちらといつもみてるよな」

「そんな事ないですよ」
明らかに動揺した声で私は答えた。

「バレていないと思ってたのか?俺はずっと前からお前が俺の事を見ているのに気がついていた」

「そんな事は…。誤解ですよ。あなたの周りにはいつも沢山の人が集まるので、その声のする方をたまに見る事があるだけです」

私は慌ててとってつけたような言葉を並べた。

「いいや、違うね。俺だけを見ている」

彼は真剣な眼差しを私に向けて言い切った。

「どうしてそんな風に言い切れるんですか?」

「お前は俺の事だけをいつも瞳に映している。俺から視線を外した事がない」

私の胸に秘めた気持ち。

私が彼を見ている事に気がつきませんように。

…気がついてくれていますように。

その気持ちが届いたというのに。

私はどうしたらいいのかわからなくなって、彼の視線から逃れるように、うつむいた。
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