逃げられるなんて思うなよ?


その日の午前中は、朝の斗季生とのやりとりのせいで、ずっと気分が乗らなかった。

仕事がはかどらない………。
というわけで、昼のチャイムが鳴ると同時に、キーボードを打つ手を止めて、席を立つ。


「ランチ行こ!」


一番仲良しの結子に声をかけると、彼女もにこっと笑い、「行こ行こ!」とすぐに立ち上がった。


「どこ行く?」
「近くに野菜カフェできたみたいだよ」
「野菜カフェ? いいね!」
「こないだテレビで見て、目付けてたんだ」
「さすが結子!」


ご機嫌にお喋りしながら歩いていると。


「……おいおい、日高水穂。
いいご身分だなあ?」


低く威圧的な声が聞こえてきて、私は縮みあがる。
恐る恐る振り向くと、案の定、斗季生が腕を組んで見下ろしている。


「遅刻してきたくせに、チャイムと同時に外出か。
偉くなったもんだなあ、ええ?」

「な、なによ……いいじゃないの。
お昼に外出て何が悪いの?」

「1分遅刻したんだから、1分延長して働くってくらいの気概はないのか、お前には?」


まったく、もう!
斗季生ってば、たったの1分でいつまでグチグチ言うのよ。
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