逃げられるなんて思うなよ?
「……いちいちうるさいなあ、もう」


私は大袈裟にため息をついた。
斗季生の眉がぴくりと上がる。


「なんだと?
おい、俺は何か間違ったこと言ってるか?」

「……間違ってはないけど」

「じゃ、なんで口答えするんだよ?」


ごめんなさい、と謝るしかない。
確かに悪いのは私だ。でも。


「……もう、斗季生のバカ!
ほんっと頭カタいんだから!
ちょっとくらい人の気持ち考えてくれたっていいじゃん。
たまには寝坊しちゃうこともあるのよ、人間なんだから!」


意地っ張りな私は素直になれなくて、そんな言い方をしてしまった。
言った直後に、なんて嫌味な言い方、と自己嫌悪に陥る。


でも、時すでに遅し。

斗季生は目を丸くして口をつぐみ、そのまま黙りこんでしまった。

それから、じっと私の顔を見つめる。


気まずさに耐えられず、私は小さく「ごめん」と呟いて、結子の手を引いて通用口から飛び出した。
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