逃げられるなんて思うなよ?
「お前、疲れてるんじゃないか?
最近、残業続きだろ。
今月、残業時間40超えてるぞ」


思わぬ言葉に、私は目を丸くする。
まさか、斗季生がそんなことを言うなんて。

逆に心配になってきて、今度は私が斗季生の顔色を窺う。


「どうしたの? いきなり。
もしかして、どっかでネジでも落としたんじゃない?」


こつこつと小突くと、斗季生が迷惑そうに「やめろ」の言った。


「あのなあ……お前、勘違いしてるみたいだから、この際言っとくけど」

「え?」

「俺は、お前が遅刻したりサボったりしたら許せねえけど、お前が働きすぎても困るんだよ」

「え……」


斗季生のいつにない真剣な顔と優しい言葉に、不覚にもキュンとしてしまう。


「……な、なに言ってんのよ」


ぼそぼそと言い返してから、ふと気がついた。

そうだ。
斗季生の任務が何なのか、すっかり忘れていた。

斗季生の今の言葉は、優しさとか思いやりとかじゃなくて……


「……どうせ、それが仕事だから言ってるんでしょ?
そうだよね、私が残業時間オーバーしたら、怒られるのは斗季生だもんね」


ああ、また嫌な言い方をしてしまった。

でも、斗季生が悪いんだよ。
私に勘違いさせて喜ばせるようなこと、言うから……。
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