逃げられるなんて思うなよ?
「バーカ」


斗季生がくくっと笑いながら言った。

私は目をあげる。
斗季生が優しげに細めた目で私を見ていた。


「ほんっとーにお前は、しょうがないやつだな」


斗季生が呆れたように肩をすくめる。それから、私の頭をくしゃくしゃと撫でた。


「仕事で言ってんじゃねえよ。
お前のことが心配だから……お前のことが大事だから、言ってんだよ」

「え……っ」


どきんと心臓が音を立てた。
冗談かと思ったけど、斗季生の顔は真剣だ。

驚いている間に、気がついたら私は斗季生に抱きしめられていた。


「お前は意地っ張りだし、素直じゃないし、それにすぐ頑張りすぎるし……本当に世話の焼ける奴だ。
俺がいないと、すぐ駄目になっちまうんじゃないか?」

「………」

「俺はお前のこと放っておけないんだよ。お前が頑張りすぎないように、体調崩したりしないように、俺が見張ってないとな」


鼓膜に染み込んでくるような声。
その優しさに、私の心はどんどん素直になっていった。
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