たからもの
私はおじいちゃんがかわいそうな気がした。
このまま帰ってしまったら、おじいちゃんはこの何もない病室で一人きりだ。
ただ秒針だけがカチカチと音を立てて動く、この部屋で。
人のいない空間ほど物寂しいものはないだろう。
まだここにいてあげたい。
特にできることはないけど、傍にいたい。
そしてただ側で座ったまま時間が過ぎていった。
その間、おじいちゃんはせき込んだり、痰がつまって苦しそうにしたり、床ずれがいたいのかお尻のあたりを搔こうとしたりしていた。
お互いいっさい言葉は発しなかった。ただいるだけ。