【短編】七階から、君を。
夜明けが来ない街
☆☆☆

お母様がいなくても寂しくない。


ただ貴方がいればそれで良いと思っていたのに。


貴方さえいなくなった私は、どうすれば良いの?


「お父様……」

大好きだったお父様は、私に連絡を取らなくなった。

三ヶ月。


「セイナ。何してんのそこで」


ベランダに座る私に、隣から声をかけたのは幼なじみのソーマ。

「ソーマ。ソーマこそ何してるの」

質問に質問で返した私にソーマは小さく溜め息をついた。

ソーマは私より二つ上。

「お前の姿が見えたから出てきたんだよ。風邪引くだろ、そんな髪濡れたままじゃ」

「いいの。お父様が帰って来るかもしれないから」

「風邪とシンさんは別問題です」


ソーマは一度家に入ってから、タオルを持ってベランダの柵を乗り越えてくる。

「ちょっと、危ないよソーマ…!」

「だーいじょうぶ。お前じゃないんだから」


そう笑って、すたっと着地した後に私の背後に回り、髪をわしゃわしゃと拭き始める。

お風呂に入って髪も乾かさないままでいるなんて私にとっては日常茶飯事なのに。


「はぁ、お前ね。女の子なんだから髪くらい乾かしなさいよ」

「ソーマ、お母さんみたい」

「あんまり嬉しくないんだけど」



ソーマはどこからか出してきた櫛で今度は髪をといてくれる。














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