【短編】七階から、君を。
「セイナは何か…鳥みたいだな。いつの間にか居なくなっちゃいそうで──心配だよ」

「何言ってるのソーマ。どこにも行かないよ」


私が生きているのはソーマと弟のお陰。


ソーマ達がいなければ、私はいなくなっても良かったの。

でも、ソーマの顔を見られなくなるのは悲しいし、ソーマが悲しい顔をするから。


ソーマは小さく笑って私の頭を撫でる。


胸がくすぐったくて、ソーマの顔から目を逸らした。


「ソーマ!!てめぇ、何してんだ」


ガラッと音がした直後、聞き慣れた怒り声が聞こえた。


「あ、イツキお帰り」

「何でこいついるんだよ姉ちゃん」

弟──イツキは不機嫌な顔を隠しもせずソーマを指差した。

「イーツーキー。いつからそんな口をきくようになったんだー?お兄ちゃんは悲しいぞー」

「うるさいソーマ。お前は兄貴じゃない」

「ソーマにいにって呼んでたお前が懐かしいよー」

「黙れ恥ずかしい」

「イツキ。そんなこと言っちゃ駄目」


イツキはうっと詰まり、顔を背けた。


「セイナ。ちゃんと髪乾かしなさいよ、分かったか?」

「分かってる分かってる」

「本当かな…」

ソーマはまた困ったように笑って、今度はイツキを見た。

「イツキ。俺はもう帰るから。明日から合宿だろ?早く寝な。───何もするなよ」

「そんなこと、分かってる」


ソーマはイツキと謎のやりとりをしてからまたベランダを乗り越えて行った。

イツキは溜め息をつき、私の隣に座る。

星がキラキラと瞬いて、どうしてだかその光が寂しく見える。

近くに見えている隣の星も、実際はすごく遠いところにいるなんて切ない。

「なぁセイナ」

「何?」


イツキの横顔。

我が弟ながら綺麗だなと思う。









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