【短編】七階から、君を。
「もう、父さんを待つのやめろよ」

「何で」


よく、分からなかった。

お父様はきっと、帰って来るのに。


イツキがそんなことを言うのが信じられなかった。


「幾ら待ったって、帰って来ない…」

苦しげな表情で空を見上げるイツキ。

そんな顔しないで、イツキ。

横からぎゅっと彼の肩を抱く。


「そんな顔、しないで──」

イツキは私の腕を少し掴もうとし、ぱたりと手を下ろした。

「思い出せ、セイナ」

掠れた声で紡がれた言葉は、ドクンと私の胸に響いた。


「な、にを」

「父さんの研究所がもう無いの、知ってるんだろ!」


お父様は天文学者だ。
太陽エネルギーの研究をしている。

今も。

「知らないよ、嘘つかないで」

「嘘じゃねぇよ。だったら、だったら何で俺がここにいるんだよ」

「それは、家族だからでしょ?」


そう言った途端、イツキはぐっと唇を引き結んで立ち上がった。

「もう寝る」

ひどく、悲しい響きだった。





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