【短編】七階から、君を。
***

次の日の朝。 

イツキが何も言わずに合宿に行くであろうことは分かっていた。

彼が目を覚ます前に服を着替え、朝食を作る。

作るなんて言葉は相応しくない献立、だけれど。

スクランブルエッグとウインナーをお皿に盛り付け、ケチャップとレタスなんかを添える。

トーストは今焼いている最中だし、イツキの好きなホットチョコレートを淹れる。

今日は特別にイツキスペシャルにしてあげよう。

きっと何か心配してくれてるんだ、あの子は。

板チョコを砕いて湯煎して、カップに入れる。

イツキは濃厚なチョコオンリーのやつより、ミルクを垂らした方が好きだから。

ちなみに少しキャラメルソースを混ぜるのだけは譲らない。


チン、とトースターが鳴った。

お皿にトーストを乗せながら、そういえば、どうしてたまにトースターとか洗濯機が呼んでるって言うのだろうかな、とどうでも良いことが頭に浮かんだ。


次は、ヨーグルト。

プレーンのヨーグルトをイツキ用の赤いカフェボウルに入れる。

三つの小皿に無花果とキウイと桃のジャムを。

イツキはこれくらいは絶対食べる。


よし。一応完成かな。


「…セイナ?」

イツキが驚いたような顔で入って来た。

「おはよう」


イツキは気まずそうに目を逸らしてから、テーブルの上を指差した。


「これ、お前が?」

「お前、じゃない」

「セイナはセイナだろ」

「セイナは良いけどお前はダメ」


いつも通りのやりとりに頬が緩む。

「…ありがと」

照れながらのお礼に嬉しくなった。

「ううん…食べよ」

二人で席について食べるご飯は、美味しい。






< 4 / 11 >

この作品をシェア

pagetop