【短編】七階から、君を。
ふと横を見て、最近ずっとテレビを見ていないな、と思う。

ニュースか何か見ておかないと、世の中の事情が全く分からない。

そこまで興味はないけれど、法学部の友達は決まって私に意見を聞くから。

イツキはもう高校生活最後の合宿だし、私はどのくらい大学に行っていないのだろう。

行儀は悪いが、席を立ってリモコンを取る。
 

「テレビ、点けるね」

そうイツキに一声、ボタンを押す。


「あっ、やめろセイナ──!!」

『三ヶ月前の五月に亡くなられた、天沢 深博士の娘十九才が行方不明という事件で───』

「い、イツキ?どうしたの?」


音声が流れた瞬間、イツキにリモコンを奪われた。


「…っこのテレビ、漏電してんだ。昨日の夜に点けたら火花散ったから…俺が帰ってきたら修理屋に持って行くから」

焦ったようにまくし立てるイツキに頷いて、彼の頭を撫でる。

「ありがと」

「…別に」


ため息をついてまた席に座ったイツキだったが、もうそんなに時間が無いらしい、時計を見てから面倒そうに立ち上がった。


「そろそろ行く」

椅子の傍に置いてあったスポーツバッグを肩に掛け、私の方を向いた。

「うん。お見送りする」


一緒に玄関に向かい、今にも出ようという時だ。


「イツキ、行ってらっしゃい。気をつけ、」


視界が真っ黒になった。

イツキの学ランだ。


「イツキ?」


やっぱり、寂しいのだろうか。


「セイナ……」


甘く掠れた声に、胸がドキンとなった。

こんなイツキ、初めてだ。


「危ないことするんじゃねぇぞ…頼むから」


こんな風に囁くイツキを、私は知らない。


「急にどうしたの。大丈夫、だよ」


そっか、と返事をして離れる。

「じゃあな」


ニッと笑みを残しイツキは家を出て行った。











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