【短編】七階から、君を。
ブオオオというけたたましい音ともに、黒いものが迫ってくる。

人間は普段、自らの危険について考えたりしないからだろうか。

目の前に迫ってくるものが分からない。


いまいち実感が湧かなくて。


体が動かない。考えられない。


ただ目の前の光景を眺めているだけ。
 






バイクが、




止まらなくて、




ああ、このままだったらきっと私、






───死んじゃうな。




何とも暢気な思考で考えた瞬間、


「セイナッ!!」



腹部に衝撃が走った。


「…チッ」


舌打ちをした男がバイクの後ろに乗り、去って行く。


それを呆然と見送った後、初めて怖いと感じた。


今のは何。

肘が痛い。背中が痛い。


「──あ、」 


声が出ない。


「セイナッ、大丈夫か!?」


目の前にソーマの顔がある。
ひどく心配した顔をしている。


「ソーマ、今、」


「大丈夫。とりあえず、行くよ」


立てる?という言葉に頷く。



心なしか陰を落としたソーマの表情を窺いながら、部屋へ戻った。













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