【短編】七階から、君を。
連れて行かれたのは、私のでなくソーマの部屋だった。


強引にソファーに座らされ、戸惑う。

「ソーマっ、何で──」

「…何ではこっちだ」


低く呟かれた言葉に、不思議と体が固まった。

「ソーマ…」

「どうしてだよ!何で、言うことを聞いてくれない?なぁ、セイナ!!」

荒げられた声。

足がすくむ。

「お前を守りたい、それだけなのにっ…!どうして逃げようとする!?」

「わか、分かんない、ソーマがどうしてそんなに怒るのか──」

「怒ってない…失望してるんだ、自分に!」

「ソーマっ」

取り乱したソーマが怖くて、ただただ名前を呼ぶことしかできない。

ふっと唐突に彼が動きを止める。

「ソー、マ…?」

「ねぇセイナ」

私と目を合わせたソーマは、驚くほどに穏やかで。


「俺が全部全部壊してしまえば─失わなくて済むのかな?」

何を言っているか、分からなかった。


「ごめん、セイナ。今紅茶でも淹れるから座ってて」

「うん…」


しばらく経って、出された紅茶を口に運ぶ。


やっぱり、ソーマは優しい。
コーヒーが飲めない私のために、ソーマの部屋にはいつも紅茶が置いてある。

「茶葉、変えたの?」

いつもの紅茶と少し違う気がして、向かいに座ってコーヒーを飲むソーマに尋ねる。

「うん。そうだよ。変えたんだ、不味いか?」


こっちがホッとするような笑み。
いつだってそう。

「ううん。そんなことない」

そう言って一口、また紅茶を啜る。

独特の苦味が目立つが、こういうのもありなのかもしれない。

「疲れただろ、あんな危ない目にあって。ちょっと横になれば?」

「え、でも─」

怖い。

あの男は何なのか。

どうして私のことを知っていたのか。


「大丈夫。俺がいるよ」


ソーマがコーヒーカップをローテーブルに置き、頭を撫でてくれる。


「そっか…うん。そうする」

一度横になると決めると、へたんと身体の力が抜けた。

瞼がどんどん重くなって──意識を手放した。








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