桜の木の下に【完】

悠斗さんたちが帰ってきてから一ヶ月が経った。

穂波家に突入した後、明月の潜伏先が判明したにも関わらずなぜいまだに解決していないのか。

それは、明月のいるあの山が半分ぐらい街に崩れてしまったからだ。地震や雨が続いた結果、見事に決壊してしまった。民家も巻き込まれてしまっていたけど、幸いにも中部に避難していたから死者は出なかった。

でも、道路は完全に土砂によって封鎖され山に入る手立てがない。歩いて登ろうにも地形や地質を把握できていないため、その分析を待っている状態だ。

そして今も校長は見つからず、悠斗さんも目を覚まさない。

やっぱり何か呪いを掛けられているんじゃないかと健冶さんに聞いてみたら、実はそうではないと聞かされた。


「悠斗兄さんは……死んだと思っているんだ」


彼は辛そうにそう言った。

悠斗さんは自分は死んだと思い込んでいて、ずっとこのまま寝てしまっているようで、身体に特別な異常があるわけではないらしい。

点滴はうっているものの、いわゆる植物状態。

心臓は機能しているのに、意思だけが眠っているのだ。


「悠斗のバカ野郎…勝手に死んだことにすんなよな……」


直弥さんは時々そんな愚痴を溢している。

そんな日々が一ヶ月も続き、皆が疲れ始めていた。神楽はすっかり体調が元通りになったけど、この場の雰囲気は最悪だ。

加菜恵さんは窓の外ばかりを眺めているし、早菜恵さんは時々大学に行って留守にするけど、帰ってきたとたん明るさが霞む。

どんよりとした空気が桜田家を覆っている。

そして季節は変わり、冬となった。

そんなある日、ずっと塞いでいた加菜恵さんが話があると言って私たちを集めた。
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