桜の木の下に【完】
*加菜恵side*
悠斗くんを集会後に占ったときに私はある映像をひーちゃんを通して視た。
それは彼の記憶。
彼が明月と出会ったときの記憶だった。
家族がいっきに亡くなってしまったあの山に、ののちゃんが柊家に引き取られたその日に行っていた。
時間ができたときは欠かさずに行っているみたいで、その日の現場にはまだお供えの花が元気よく横たわっていた。
学校に行くと言って出たにも関わらずここに来た理由。
それは明月が夢に出て誘ったからだ。
『貴方の家族の遺骨、掘り出してあげましょうか』
優美に笑う明月に悠斗くんは警戒したけど、それは彼の望みでもあった。崩れた土砂に埋もれたままの家族に墓はなく、それをどうにかしたいとずっと考えていた。
掘り出すなんてなんだか悪いことのように思えたけど、彼は自分の力だけではどうにもできずにいたから協力することにした。
その代わり、明月に力を与えなくてはならなくなった。ののちゃんの敵だとは知りつつも、家族想いの彼にとって明月の提案は喉から手が出るほど欲していたことだった。
しかし、彼は弟たちへの影響を危惧していた。明月と対立するということは、戦いを交えることでもある。
彼の心は揺れていた。弟たちにこのことを話したら馬鹿馬鹿しいと言われるかもしれないと思ったけど、柊家当主となった今はお墓をたてる責任があると感じていた。
夢にも出てきた。両親が泥まみれになって自分を追いかけてくる夢に。なぜ追悼してくれないのか、と。
それで彼は悩みながらも、明月に協力していることは隠した。
明月が弟たちを傷つける可能性が大いにあるから、そのときは覚悟しろと牽制していた。それなのに、明月は弟たちを平気で傷つけた。
だから、彼はののちゃんたちが襲撃された後に明月を消そうと追い掛けたんだ。
私が視たのは、家のバルコニーで明月を牽制するところまでだったけど、逃げた後も執拗に追い掛けた理由は理解できる。