桜の木の下に【完】
すっかり乱れた空気を戻すかのように里桜はまた真剣に話を進めたから、私だけが一人あたふたして終わった。
どうやら、その子孫である悠斗さんが似てしまったのはたまたまらしく、校長先生も彼に会うまではそれにまったく気づかなかったらしい。
逆に、それが綻びとなったのも事実だ。
「んで、それがどう関係するかってーと、穂波真人は道真本人で、未練がましくこの世にやっと転生できたわけだ。それを予期してたんだかなんだか知らないが、明月は自分の依り代(よりしろ)となる人間の女を探していた。それがたまたまコイツになっただけで、孫っていうのは関係ない。ちょうどいい物件がたまたま近くにあっただけだ」
「なんか、そのたまたまっていうのヤダな」
「たまたまはたまたまなんだから仕方ねーだろ。まあ、あれだ……奥さんには申し訳ないが、真人がなんのために婚約したのかはわからない。真人は完全に道真の人格を持ってるからな」
「ん?……持ってる?」
「おまえもおかしなやつだな。そこは気づけるんだな」
「あ、やっぱり?加菜恵さん、真人さんは存在します。真人さんの中に道真さんの人格が残ってるだけなんです」
「……ののちゃん、それってつまり、真人は助かるってことなのよね?」
ずーっと俯いて黙っていた加菜恵さんが、ゆっくりと頭を上げて話しかけた私を見た。
すがりつくようなその目に、私は大きく頷いてみせる。
「それで合ってるよね?」
「まあな。だからまあ、安心しな。今まであんたが一緒にいたやつは、間違いなくあんただけを見てたよ」
「そう…そうなのね……!」
加菜恵さんが、やっと笑ってくれた。
泣き笑いのような感じではあるけど、その笑顔は加菜恵さんの笑顔だった。
私が知ってる、加菜恵さんの。
「やることはただ一つ」
人差し指を立てた里桜は、こう断言した。
「道真の精神を取り除き、明月を消滅させるんだ」