桜の木の下に【完】
「私は病に倒れ伏した。明月は物を持てぬゆえ看病ができず、人に見えぬがために助けを求めることも叶わなかったのだ。私は日に日に衰弱し、歩けなくなってしまった。明月はしきりに泣いた」
自分のせいだ、と。
その頃には言葉を話せるようになっていた。
自分が力を奪っていたのを自身は理解していた。だが、それを伝えられるほど思考が発達していなかったため伝えられていなかった。
話せるようになったのは彼が伏してから。
動けない彼の話し相手になりたかった。
彼が………好きだった。
「私は死ぬ間際に明月に言ってしまったのだ。『また会おう』と。それが私の最後の記憶なのだが、明月はそれを成し遂げようと今まで私を待ってくれていた」
何人も主を換えたが、なかなか道真に巡り会えずにいた。明月は日に日に焦った。
もう二度と会えないのではないかと。
血眼になって道真の生まれ変わりを探すもなかなか見つからない。
それを繰り返す年月が長すぎたのか、明月はだんだんと狂い始めた。
明月が体力を使えば、主の寿命が縮まるスピードも比例して早まった。
主を使い捨てるようにしていた矢先、夢の中に道真が現れ彼女に伝えた。
『もうすぐ会える』と。
そのお告げから主を一人亡くした後、桜田の祖父である佐吉さんに新しい主として仕えた。
会えることがわかっていた明月は探すことをやめたため、佐吉さんは今までの主の中で一番の長生きをすることになる。
ちなみに明月が最強とうたわれていたのは、主の寿命が短すぎたため、その分力が強いと見なされていたからだ。
実際は違うというのに。
ひたすらに愛した人を求める一人の女でしかなかっただけだった……それを理解できた主は誰一人としていなかった。
そんな自分を生み出し、育て、可愛がってくれた道真に好意を寄せるのは自然な流れだったといえる。
そして、道真の生まれ変わりである校長…真人との再開を果たした。
明月は道真の人格が真人の中にあることを知り、幻獣から人間になることを決意した。
自分が幻獣だから道真が死んだことをずっと悔やんでいた。同じ人間ではないから、この想いを伝えられなかった。
だから、桜田を利用しようとした。
「しかし私は…それを望まなかった」
道真は明月の暴走を食い止めるべく、真人の手を借りて独自に行動していた。