桜の木の下に【完】
「それで、明月はどうしたいわけ?ってか、ここ何?」
直弥がいっこうに進もうとしない話に痺れを切らしたのか、話題を変えた。
まだ話し足りない気もするが、知らない方がいいこともきっとあるはずだと自分に言い聞かせた。
「ここは真人が作り出した空間…そして、私を閉じ込める空間でもある。ここから私はもう一生出られないわ」
「封印と同じってこと?」
神楽がピンときた、と言った顔で聞くと、明月は頷いた。
「眠りとも違うのかしらね。不思議と心が穏やかになるのを感じる…ここが私の居場所なのだと感覚でわかるわ。それに凄いのよ。私が欲しいと思っていたものが具現化されるの。だからしたいことは特にないかしらね。もう満足してるもの」
ということは、あの庭は明月の趣味か。
「道真はどうしたい?ここに残って明月と一緒にいたい?」
神楽が身を乗り出してそう聞くと、彼もまた深く頷いた。
「可能なら」
「はいじゃあ決定!」
元気よく神楽が声を張り上げると、道真はぽかんとした顔で神楽を見つめた。
ニヒヒ、と神楽がどや顔をしてみせる。
「なんかわかんないけど、明月は精神に干渉して具現化する能力があるみたいなので、明月の中に道真の意識を取り込ませまーす!」
道真と真人を切り離したいのだ、と補足すれば彼は顔を綻ばせた。
明月も驚いたようだったが、しだいに理解したのか二人で微笑みあった。
「ちょうどここも、明月の具現化をサポートするような空間みたいだからバッチリでしょ?」
「しかし、そんな方法があるとは思えないのだが」
「ありますあります!お任せください」
「里桜と翡翠喚んで」と、待ってましたとばかりに登場した紅葉に神楽が命令した。
里桜、と聞いて二人が反応した。
「里桜…まさか、封印が解かれた、と申すか」
「…正直会いたくないけれど」
「僕だって顔も見たくなかったけどな!どうしてもっていうからおまえたちのために一肌脱ぐことにしたんだ、有り難く思うことだな!!」
さて、これで役者が揃ったようだ。