桜の木の下に【完】
この桜たちが立派に花を咲かせるのは、五年後か、十年後か。
それまでに、私も立派な大人になっているだろうか。
「おまえも早く行けよ」
桜の木の下で、里桜は桜に手を添えながら私に言った。
掛け軸そのままの風景も、そう遠くないのかもしれない。
「そうする。里桜も早く帰って来てね」
私はダッシュでその場を去り二人を追いかけて、健冶さんの腕に飛び付いて耳打ちをしその場から走り去った。
距離を置いて一度振り向くと、立ち止まった健冶さんは口許を手で押さえて私を見つめていた。
直弥さんは状況がわからずにただ突っ立っている。
「仕返しですから!」
私も、もうやけくそだったのかもしれない。
一言「好きです」と、囁いてこんなに晴れた気分になるくらいには。