桜の木の下に【完】
狙う理由は一つだけ。
幻獣も消えたくないのだ。主人と共に生きた幻獣は主人から貰っていた力が尽きると消滅する。
消滅したら……二度とよみがえることはない。
あのあと涙が収まって二人は戻り、そのときに健冶さんの言葉を聞いたときに私は思わず言ってしまった。
私の言葉に二人は傷ついたような顔をした。
「それは、悠斗が力を分けているからだ」と直弥さんは力なく言い、それ以上私は何も言えなくなった。
きっと、悠斗さんにとっては帰ってきた幻獣たちから家族の面影を見ているのかもしれない。幻獣も家族の一員なのだ。
幻獣にも自我があり、意志がある。
お祖父ちゃんの幻獣は、お祖父ちゃんと血の繋がりがありパートナーのいない私を手に入れたいと思っている。
私は幻獣のことを何一つ知らないからそれを受け入れてもいいと思っているけれど、お祖父ちゃんの遺言に従わなければならない。
お祖父ちゃんは幻獣のせいでお祖母ちゃんとお母ちゃんを失ったと思っていた。
でも、なぜ二人の死に幻獣が関与しているのかはわからなかったんだけど、二人の言葉に納得した。
「幻獣使いは力を与えているから、その分身体が弱くなる」
「特に女の人は体力的に不利」
寿命が短くなってしまう理由はわかったけど、でもそれは誰にだって当てはまるはず。
私を匿う必要はあるのだろうか。
「もう目の前で人が死ぬのを見たくなかったんじゃねーの?本来なら佐吉(さきち)さんが先に看取られるはずじゃん」
という、直弥さんの何気ない言葉に私は胸がつまった。佐吉はお祖父ちゃんの名前だ。
そうか、お祖父ちゃんは自分よりも若い家族が疲労で死んでいくのを見たくなかったんだ。日に日に痩せ衰え、床に伏せる時間も長くなり、寝ている時間の方が多くなっていくのをもう見たくなかったんだ。
元気にはしゃぐ私の後ろに、目を閉じて動かなくなった私の顔を無意識に探していたのかもしれない。
まるで電池の切れた玩具のような、そんな娘孫の姿を。
だから、柊家に私を護るようにお父ちゃんが依頼した。
「『しばらく家に帰ることはできないがおまえのためだ、許してくれ。お父ちゃんたちが幻獣を倒して戻って来るまで三人のところで待っていろ』、と幹(もとき)さんからの伝言だ」
健冶さんの言葉に私は凍りついた。
指先がどんどん冷たくなっていく。
「倒す…?」
お祖父ちゃんの幻獣は強いという。でも、桜田家総員で掛かれば勝てる相手だと。
このシチュエーションは柊家に似ていないだろうか?
「桜の木の下…………」
ふいに、そんなフレーズが口から溢れた。
「呼んでるの…?」
封印されているという、私の幻獣が……?