桜の木の下に【完】
その帰り道、直弥さんはビニール袋をぶら下げながら上機嫌に歩みを進めていた。
よほどポテチが欲しかったのだろう。
「夕飯の前に食べるなよ」
「夜に食う」
「夜食もやめろ、健康に悪い」
「だって腹へるし。腹へって起きるとかどんだけひもじいんだっつーの」
「寝坊しなくてすむじゃないか」
「いや、あのな?嫌だって言ってんじゃん」
「しつこいなあ」とため息が降ってきた。
私たちは三人横に並んで歩いていて、車が来たら危ないなあと思いながら歩いている。
私は一番右端を歩かされていて、車が来ても避けなくていいということらしい。二人はバイクや車のエンジン音がする度に何度も振り返っていた。
それを申し訳なく思ったけど、並んで歩くからこうなるんだと思い直す。でも、ゲームみたいに縦一列っていうのもなんだか笑えるよね。
「もう夕方か……早いな」
角を曲がったところで夕日が目の前に来て一気に眩しくなった。
健冶さんの言葉でさらに実感した。学校を出てそのまま買い物に行っただけなのにもう日が暮れようとしていることを。
一日を速く感じるようになったのはいつ頃からだろうか。年を重ねるごとにその体感速度を増している気がする。
「じゃ、これとこれ持って走れ」
「え、」
「いいから早く、な?」
「うあ、は、はい」
夕日に見とれていたら、いきなりドサッと買い物袋を二つ渡された。状況を飲み込めずにいたけど、意地悪な行動とは裏腹に真剣な表情の直弥さんを見て、従わなくちゃ、と無意識に感じた。
あそこを右に曲がればすぐに家に着く。合鍵を朝に貰ったから問題なく入れるから心配ない。
ピリピリとした二人の空気に圧倒されて、言われたままに走った。卵が入った方の袋に意識を向けながら。
私がその場からいなくなったときに、大いなる力を持つ者が彼らの目の前に現れた。
「悠斗がいないっていうのに」
「タイミングを見計らっていたのか、あるいは俺達の力量を計りに来たのか」
「何にせよ、タダでは帰さねーよ」
彼らは緊張からか、冷や汗をその額に滲ませていた。