桜の木の下に【完】
*ののside*
「いったたた……」
何もないところで転んでしまった。
だって、卵を冷蔵庫に入れて戻ったら、なぜか健冶さんが血塗れで倒れてるのに直弥さんは突っ立ってるだけだし、声をかけても二人とも動かないし、お父ちゃんが急に現れて私を急かすし。
何が起こってるのかさっぱりわからないから、頭が混乱しちゃってて身体が上手く動かなかったんだ。
「……あれ?動かない」
膝に擦り傷が付いていてみっともないから立とうとしたのに、右足だけが動かなかった。
まるで、地面に縛り付けられているような。
「あれ、こんなところも血が出てる…」
右足を見ると、血が点々と滲み出ていた。
「なんか、力が抜けて……おかしい、な…」
瞼が重くなって、お父ちゃんの怒ったような困ったような顔がだんだんと遠くなっていった。
「…ば、ら……?」
その暗くなる視界の中で、なぜか真っ赤な薔薇を見たような気がした。