桜の木の下に【完】
この学校に学年は無いが、ランクによってクラス分けがしてある。
私のクラスはBクラスで、上から二番目のランクだ。昇格もあれば降格もあるという厳しい審査の元で成り立っている。
だから私のクラスにはもちろん年下もいるわけで、あんなにうるさくなってしまったのだ。おかげで恥ずかしい思いをした。
ちなみに私は17歳である。
「桜田さんにはこれから校長先生に会ってもらいます」
「はい…」
校長先生……?
職員室の前まで来ると、担任が振り返って私に告げた。
校長先生はこの学校に決まったときに1回会ったきりだけど…そのときも顔合わせだけで、私は先に帰ってお父さんがしばらく話をしていた気がする。
今更なんだろう?
「校長室の場所はわかりますね?」
「はい」
「それからごめんなさいね。さっきは静められなくて…私も初めてだったから」
「平気です、大丈夫です」
初めてだったから…それは、私が幻獣を見られないことに対しての質問だろう。
私は困った顔をしている担任を労るように微笑んだ。仕方ないことだから。
頭をサッと下げると、踵を返して校長室に向かい、彼女から逃げるようにしてその場を去った。校長先生を待たせるわけにはいかない。
目的地の前まで来ると、私は深呼吸をした。やはり、偉い人の前に一人で行くのは緊張する。
コンコン、と2回ノックすると、中からガチャリとドアが開かれた。そこには柔和な笑みをしたまだ若い校長先生が立っていた。
「待ってましたよ。どうぞ入って」
「し、失礼します」
私は校長先生の横を通り抜けて部屋に入った。
歴代の校長の写真がずらりと壁に並んでいて、分厚い書物で本棚がびっしりと埋まっていた。
広い部屋の中央には、黒い光沢をもった高そうな大きなソファーが陣取っていて、ガラス張りのテーブルがきらりと光を反射している。
…やっぱり落ち着かない。
どこに行けばいいかわからずに立ち往生していると、コンコンとノックする音が背後から聞こえた。
「はい、どうぞ」
「失礼します」
すると、男子の声が聞こえて靴音が近寄ってきた。邪魔にならないようにその場を避けると、「すみません」と言われた。
その声の主はスッとソファーに近寄ると、躊躇うことなく音もなく座った。
背が高くて広い背中だな、と思った。
「桜田さんもお座りください」
「あ、はい!」
校長先生に促されてやっと私も座った。
右にはやっと顔を見ることができた年上っぽい青年がいて、目の前にはテーブルを挟んで向き合うように校長先生が座った。
「桜田さん紹介します。彼は柊悠斗(ひいらぎゆうと)。我が校のリーダーです」
「初めまして桜田さん」
「初めまして…」
目線が合って私は気づいた。
彼、校長先生と目がよく似てる。
思わず二人を見比べてしまい、校長先生に笑われてしまった。
「そんなに似てますか?実は親戚でね、特別近しいわけでもないんだが似てしまったのだ。若い頃の私にそっくりで時々錯覚を見てしまう」
「校長、本題に入りましょう」
「おお、そうだ」
鋭い指摘に校長先生は思い付いたように目を丸くさせると、真剣な表情になって私に向き直った。
何を言われるのだろうと身構えていると、彼の口から出た言葉に私は絶句して何も考えられなくなってしまった。
「君のお祖父様が、つい先刻亡くなられたそうだよ」