桜の木の下に【完】
*
私が戻ってきた神楽に連れられてリビングに降りると、座っていた直弥さんと悠斗さんが神妙な面持ちで入ってきた私たちを見上げた。
健冶さんはいなかった。
「あの……」
「身体が平気だったらそこに座れ」
「……はい」
ソファーに座っている悠斗さんに促されて、向かい側のソファーに座った。神楽も私の隣に座って少し腰が沈んだ。
直弥さんはさっき一瞬だけ顔を上げただけで、今はソファーに囲まれた中央にあるテーブルに肘をつけて手を組み合わせ、そこに顔を乗せて俯いている。
さっきも思ったけど、顔色も優れないし声も発さない。元気がないのは一目瞭然だった。
悠斗さんの声で直弥さんから目を移す。
「健冶はここ三日、意識が戻らない」
「………………え?」
この一言から五秒後ぐらいに、やっと声を出した私。健冶さんのあの血にまみれた姿がフラッシュバックし、訴えるようなあの目が脳裏によみがえる。
そして、私に声を懸命に絞り出して『来るな』と言ったきり、意識が混濁していたのか開いていたけど虚ろだった伏せられた二つの目。
……………………絶句。
その後も悠斗さんが説明をしていたけど、ほとんど何も頭に入って来なかった。