桜の木の下に【完】

条件……身体を一度貸せば、元には戻れない。

幻獣使いは寿命が短いから、一度その世界に入れば普通の人ではなくなる。

正直、あのときは即答できなかった。

寿命や自由を引き換えに、力を望むこと。

私の幻獣がどこに封印されているのかわからない今、皆に護られてばかりでは情けなさすぎる。自分で自分の身を護ればそれですむ話ではないのか。

そう思うも、今までと世界が変わってしまうとなると、怖く感じる。無知な私にいったい何ができるというのか。

…………………どこ、に?

お父ちゃんは封印場所を知らないのだろうか?

なかなか聞く機会がなかったし思い付かなかったけど、お父ちゃんは封印場所を知ってるんじゃないの?

知ってるなら教えてくれればいい、でも教えられていない。

ということは、お父ちゃんは私に幻獣に関わってほしくないということだ。

その想いに反して自ら飛び込めるほどの勇気が私にはあるのか。

…………無理だ。

家族を裏切るなんて、私にはできない。


「………行こう。お見舞い」


困ったような顔をしている神楽の手を引き、一度も足を踏み入れたことのない健冶さんの部屋へと向かった。

………でも。

そんな家族を護れるなら。

とは、思っている。
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