桜の木の下に【完】

*

「お邪魔します……」


のっちに続いて健冶の部屋に入る。

そこにあるのは本ばかり。よく見れば、身体の構造や幻獣についての書物、医療や栄養、歴史の本など、この年の男子が読むような書物ではなかった。その量も半端ない。

壁一面にある本棚に隙間は無かった。


「うわ、地震があったら崩れそう……」

「ぎゅうぎゅうだから意外と崩れないんじゃない?」

「そ、そうかな…」


彼が寝ているベッドまではお互い小声で話し、足音もなるべく立てないように歩いた。

こんなのは朝飯前なんだけど、あたしの場合はわざと少し足音を立てながら進む。彼女の前ではあえて普通にしなければならない。


「……酷い」


ベッドの横にたどり着いたとき、のっちは両手で口許を覆った。わずかにその手が震えている。

それもそうだ。

包帯でぐるぐる巻きになった全身に、酸素ボンベ、点滴、機械のピーっ、ピーっ、という音。

通常なら病院送りだ。

でもあたしはそれをただ見下ろした。

なんとも思わない。

人を殺したこともあるあたしにとってはこんな程度、痛くも痒くもなかった。


「のっちが貧血で倒れた後のことを説明してあげる」


あたしの言葉にのっちは少しだけ頷いた。

その目線は健冶に注がれているけど、構わず続けた。

………本当は貧血じゃないんだけどね。
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