桜の木の下に【完】
毒の刃は俺の右目を奪った。
だが、一命を取りとめたのは幸運だったと言える。今頃は死んでいたかもな。
「健冶さん、かき氷できましたよー」
「ああ、今行く」
桜田の呼ぶ声に応答し、パタンと膝の上にある本を閉じた。
今は我が家ではなく、桜田家に厄介になっている。直弥と神楽もここで暮らしている。理由は二つ。
場所がバレた今、隠れても仕方ないこと。
そして、柊家にたむろっていた幻獣が全て姿を消したこと。
………悠斗兄さんはというと、あの日、明月に襲われた日から帰ってきていない。
明月を追い払うために疾風と共に激しい戦闘を繰り広げたのは知っているが、その後行方不明になってしまった。
幹さんの部下があとを追っていたにも関わらず、闇に紛れるようにして山の中で忽然と消えたそうだ。
その山は……柊家が死んだところだった。
「……痛い」
「は?それっぽっちで頭がキーンってなってんのかよ。オレなんてまだまだイケるぜー!……………ぐあっ!キーンて、キーンって来たああああ!!」
「うるさいわね、頭に余計響くじゃない」
「そんな神楽は全く表情崩れてないよね」
「あたしは食べるの上手いから平気なの。のっちは大丈夫?」
「私は……たぶん、今のところは」
桜田は俺よりも回復が早く後遺症も残らなかった。
直弥も無事で良かった。
なのに、心には風穴が未だに開いている。
痛かった。
悠斗兄さんを思い出すだけで………
そこがヅキッと痛むんだ。