桜の木の下に【完】
「何すればいいのかな……」
「とりあえず進級試験だけを考れば?」
「進級って……私関係ないよ」
「関係あるって。進級しないとクラスが二人とは別になるし」
「え……」
「明月と戦って生還したんだから、それぐらいの能力があるってことで進級できそうな気、のっちはしない?」
「でも……その能力を私は持ってない」
「持ってなくても上がらなきゃ」
何なんだこの問答、と私は少し神楽にイラついた。
でも、二人と別れるのは心細い。
二人と一緒に暮らしてるっていうのが知られてて、未だに友達はできていなかった。
「まあ、校長がなんとかしてくれるっしょ」
神楽はしれっとそんなことを言っていたけど、まさか本当に進級してしまうとは……
「コネってことだよね……」
何もしないままAクラスに編入された私と、試験で見事合格した双子。
………うーん、なんか複雑な気分。
「やっぱウケるわ。四人全員弁当の中身が同じって!」
「……文句があるなら食うな」
「別に文句じゃねーし」
「明日は私が作ってみようかな……」
「気を使わなくていいわよ。あんなにしけた顔してた男がこんなにはしゃいでるんだから」
「しっ……しけてねーし」
確かに、直弥さんのあの姿は可哀想で見ていられなかった。
悠斗さんも帰って来ない、健冶さんも目を覚まさない。
あの二日間は直弥さんにとっては忘れたくても忘れられない心の傷を生んだんだ。
「俺が好きでやってることなんだから直弥にグチグチ言われる筋合いはないし、もう聞き飽きた」
「えっ……健冶?」
「そろそろブラコンを卒業しろって言いたいんじゃないの?」
「そうなのか?おい健冶、そういう意味なのか?」
「しつこい」
「健冶……なんで……」
「あはは…」
私は乾いた笑い声を出すことしかできなかった。
あからさまに落ち込む直弥さんはガックリと肩を落とした。健冶さんはそれを無視して箸を動かす。
神楽はそんな二人を気にも止めないでカラフルな爪に意識を向けていた。
でも、この和やかな雰囲気が好きだった。
くだらない…と言ったら失礼かもしれないけど、何もないこんな日が続くのが好きだった。