桜の木の下に【完】
*神楽side*
「なーんかあの二人いい感じじゃない?」
「あ?」
「のっちと健冶よ」
「ほうか?」
「………食べてばっかなのはあんたの方よ」
口に焼きそばを頬張りながら返事をする直弥を呆れたように見つめた。
そんな彼は口にあるものを飲み込むと「うーん?」と首を捻った。
「いい感じって何が?」
「ムードが」
「ムード?」
「あんたバカ?」
「なんでそーなんだよ」
「鈍感にも程があるってこと」
「人の付き合いにグチグチ言いたくないんだよね。特に兄弟ってーのは」
なんだ、ちゃんとわかってんじゃん。
あたしがちょっと見直したところで、直弥は「ところでさ、」と切り出した。
「なんでコソコソ後ろを追ってるわけ?」
まっとうな質問を受けて少しだけ悩んだ。
実は先に人混みに行った後、屋台を回っていたら先を追い越されてしまっていたのだ。追い付ける距離ではあるけど、わざとそうしなかったのは……
さっき人に紛れた幻獣を見つけてしまったから。
男性が一人、私たちのさらに後ろを歩いて前の二人を尾行している。それに直弥が気づいているかどうかが問題なんだ。
人気のないところなら堂々と退治できるのになあ、と機会を窺っているところだ。
「あんた気づいた?」
「何に?」
「あの二人手繋いでるの」
「……………………はあ!?え!?」
「……やっぱりね」
カマをかけたけど、幻獣にやっぱり気づいていなかった。
直弥はあんぐりと口を開けたまま前の二人を凝視する。ていうことは、さっきのは男女感の付き合いの言葉じゃなくて、ただの人付き合いの言葉だったみたい。
「マジだ……マジか……」
「だからそっとしておこうかなーと思ってこうやって後ろを歩いてるんだけど」
「そうだな、このままでいいよ」
直弥は意外な兄弟の一面を見てしまった、といった感じのショックを受けてるみたいで、大きく頷いた。
……よし、これでいい。
その後、屋台を回るふりをして直弥がチョコバナナを買っている間にストーカー野郎を隠密に倒した。
でもそのストーカー野郎に明月の気配がなくてホッとした。あいつの差し金だったらどうしよう、と気が気ではなかったのだ。
「神楽、チョコバナナ二本食べない?」
「なんで三本も買ってんのよ?」
「いやー、なんか。ジャンケン買ったらもう一本オマケするって言われて、つい」
「まったく……貸しなさい」
あたしはその一本を奪うと、チョコバナナを物欲しげに見ている近くにいた小さな男の子にあげた。
「おとーさん、おかーさん!おねーさんにチョコバナナ貰ったあ!」
「「え?」」
「あ、いいですあげます。余ったので」
「いいんですか?」
「はい」
「すみませんねえ」
「おねーさんありがとー!!」
「バイバーイ」
おねーさん、という言葉で上機嫌なあたし。その様子を直弥は目を丸くして見ていた。
「神楽、子供得意だっけ?」
「どちらかというと苦手」
「ふーん、苦手なのにスゲーな。あんなニコニコできるなんて」
「なんたって、あたしはおねーさんだから!」
「あ…そっ」
「何よ?」
「いや~…別に」
しまった、といった顔で直弥はそっぽを向いた。あたしの声に険があるのを見抜いたのだろう。
たかだか17歳って言ったって、あんなに小さな子供だったらオバサン扱いされても不思議じゃない。
………オバサンじゃないけど!!!
「あれ、見失ったっぽい」
「大丈夫よ。そのうち見つかるわ」
子供に気を取られていた隙に二人を見失ってしまった。
そのうち見つかる。
そうタカをくくっていたけど、いくら探しても二人を見つけられなかった。