桜の木の下に【完】
似た者同士
*直弥side*
夏休みはとっくに終わって、秋になった。
秋は寂しい季節だ。
茶色くなった落ち葉が地面に落ちていて、緑色の元気だったころの面影はない。
「健冶」
「ああ」
「ああって、ちゃんとわかってんのかよ」
「わかってるよ」
教室の窓の外を眺めている健冶の前の席に座ってオレが声をかけるも、やっぱりどこか上の空だった。
そりゃ、そうなるのもわからなくもないけども。
「ののちゃんだって休みたくて休んでるわけじゃねーよ」
「わかってる」
最近の急激な冷え込みのせいか、ののちゃんは体調を崩して寝込んでいる。
そう、異常な程の寒波が日本列島を覆っていてなかなか出て行きそうにないと天気予報にあった。
今の気候は十月だというのに十二月並で、農家や漁師が頭を抱えていると連日報道されている。
この気候で洋服屋も衣替えに大忙しだ。
「はあ」と健冶がため息を溢すもんだから、オレもなんだか暗い気分になってきたぜ。
「元気出せよ、そんなんじゃ寝込んでるののちゃんに示しがつかないって」
「何の示しだよ」
「あーっと…元気な示し、的な?」
「なんだよ、それ」
よかった、少し笑ってくれた。
神楽がいなくなってから、ののちゃんは少し塞ぎがちになった。
健冶も前のような感じじゃない。
だから、オレが明るい空気を作らなくちゃな。
「まあ、そうだな。あいつも今は一人じゃないしな」
「だよな!ちょっと驚いたけどよ」
ののちゃんを一人にするのは危ないし、かといって加菜恵さんにも仕事があって看病できない。
それを加菜恵さんに昨日の夜に電話で相談したら、適任者がいると教えてくれて持ちかけたところ、その適任者は快くオッケーしたそうだ。
で、今朝になってインターホンがなって出てみたらなんとそこには妹の早菜恵さんがいた。
その隣には知らない男性が一人。
「ああ、彼は気にしなくていいよ。私の護衛だから」
「護衛?」
「私も狙われるかもしれないからってことでね」
早菜恵さんも明月に狙われる可能性がなくもないから、やっぱり幹さんの暗部から派遣されたらしい。
足を洗ったとはいえ、早菜恵さんも幻獣使いだった人だ。明月がののちゃんから標的を変えないとも限らない。
紹介を受けてもその男は黙って家を眺めていた。
「じゃあ、いってらっしゃい!間違っても早退とかしちゃダメだよ!」
「はーい!……だってさ」
「うるさい」
見送りに返事をして二人で歩き出す。
隣に流してみたが、素っ気ない返事だけだった。口数もさらに少ないし、何を考えているのか前を向いている目には何も映っていないようだった。
「あ、そこに犬のウンコあるぞ」
「まったく……無いだろうがそんなの」
「ちぇー、面白くねーなー」
かまかけたのに引っ掛からなくて本当に面白くなかった。