桜の木の下に【完】
「はっ………!」
喉がカラカラに掠れ、まつ毛が涙のあとでガビガビになっている。
汗が乾き始めていて肌寒かった。
「あ、起きた!」
女性の元気な声を聞いて朦朧とした意識の中そちらに目を向けると、見知らぬ女性が座っていた。
パッと明るい笑顔を咲かせている。
「み、ずを……」
「はいはいお水ね」
ゆっくりと上半身を起こしている間に、女性はあらかじめ用意していたコップに水を入れ、私に差し出した。
それを受け取ってゴクゴクと飲み干す。
少し呼吸が落ち着いたところで、私は声をかけた。
「あの…」
「私は早菜恵。加菜恵の妹よ。姉さんに頼まれて看病をしに来ました。ののちゃんは今日は学校をお休みにしているので、双子はさぞかし心配していると思います」
と、笑いを噛み殺しながら早菜恵さんは私に説明した。
そっか、加菜恵さんの妹さんか。
どこかで見たことがあるような気がしたんだ。
「今何時ですか…」
「今はお昼の二時だよ。お腹すいた?」
「少しだけ」
「それならお粥があるので少々お待ちくださいませ!」
神楽を彷彿とさせるような快活な言葉を残すと、ついでに水とコップも下げていった。
しん、と静まり返った部屋にまた寝転ぶ。
そうだった…昨日から熱出しててそのまま寝たら朝になっても起きなかったんだね。
二人には心配かけちゃったな。
時計の秒針の音を聞きながらそんなことを思っていると、くしゃみを一つ盛大にしてしまった。
ああ………寒い。
「ごめん!大丈夫?適当に着替え持ってきてあげるね!」
私のくしゃみを聞いて慌てて駆けつけたのか、早菜恵さんはおたまを持ったまま現れたかと思ったらまたいなくなってしまった。
いえあの…ここが私の部屋だから着替えはここにあるのに。
声をかける暇もなく飛び出して行った彼女に申し訳なく思った。
私はモソモソと布団から出てタンスから服を適当に引っ張り出したけど、タオルがないことに気づいた。
タオルは洗面所にある。
すでに湿っている服で汗を拭くのも気が引けるなあ、と思っていたら、タオルを持った早菜恵さんが現れた。
あれ、着替えを取りに行ったはずじゃなかったのかな。
「ごめんね!ホントに気が利かなくて!着替えはここにあるはずだもんね。だからタオル持って行けって言われちゃったよ」
彼女は苦笑してそう言った。
ということは、他に誰かいるのだろうか。
でも顔を見せる気はないんだろうな。
「大丈夫です、ありがとうございます」
私が掠れた声でお礼を言うと、タオルを私の近くに置いて早菜恵さんはまた元気よく言った。
「ちょっと経ったらまた来るから、それまでに着替えられたら着替えてね!」
「はい」
早菜恵さんは終始にこやかにここから出て行った。
元気な人だったな……と思いながら、持ってきてくれたタオルを掴んで顔に押し付けた。
ああ、なんなんだろう。
今になって夢の余韻がぶり返してきた。
「ひっく……うっく…ああ………」
寂しかった。
皆いなくなるんじゃないかと、怖かった。
「………またっ、だ」
最近、地震の頻度が極端に上がっている。
寒さも厳しくなってきているし、もう、限界に近づいているのかもしれない。