桜の木の下に【完】
*
夕方になると二人が帰ってきた。
「おかえりなさい」
「ただいまー、ののちゃん元気になった?」
「まだ少しだるいですけど、食欲はあるので大丈夫だと思います」
「よかったよかった、な、健冶?」
「ああ、まあ……」
直弥さんが健冶さんを見ると、健冶さんは荷物を持ってさっさと自室に向かってしまった。
「素直じゃないんだから」と直弥さんはそれを見て肩をすくめる。
「早菜恵さんとは入れ違いになってしまいましたね」
「そうなの?」
「はい。夕飯も作ってくれて、冷蔵庫に入ってます」
こたつでぬくぬくと温まりながら冷蔵庫を指差して直弥さんに伝えると、嬉しそうに冷蔵庫を開けていた。
「今度お礼言わないとな……」という呟きが聞こえてきたけど、私は苦笑した。
たぶん、作ったのは別の人だと思う。
早菜恵さんにお礼を言ったらドギマギしていたから、その連れの人が作ったのだと察した。
寡黙なカッコいい男性だったけど、早菜恵さんを見る目は優しかったなあ。
若干、毒舌っぽかったけど。
「早菜恵さんと何か話した?あの人も幻獣とは無縁の道を選んだ人だし」
「ああ、うん。ちょっとお話しはしました」
そう、ちょっとシリアスな話を、ね。