桜の木の下に【完】
どうするべきか。
インターホンを押すべき?
それとも家に戻って電話をして、理由は適当にかこつけて遊びに行くか。
それとも、電話で呼び出して事情を洗いざらい話すか。
色々と案は出るが何が一番得策なのかわからない。そもそも誰もいないかもしれない。
「確か、校長と加菜恵さんは結婚してるんだったっけ」
「あ……あの女の人って加菜恵さんだったのかもしれません」
水瓶が見せてくれた映像に、ソファーで寝ている女の人がいた。顔は見えなかったけど、もしかしたら加菜恵さんだったのかもしれない。
じゃあ、あれは校長先生が見ていた風景?
校長は何かを隠しているのだろうか。
「校長って名前なんだっけ」
「真人だ、穂波真人。穂波家に婿入りしたんだ。旧姓は……知らない。だが待て。まだ怪しいってだけで映像と関係があるかはわからないんだ。早とちりは命取りになる」
「上手いこと言うなよ」
「取り合えず今日は突入はやめておく。俺たちも家の中から見られているかもしれない」
「それ怖っ!早く消えよーぜ」
「明日にでも加菜恵さん宛に電話してみよう。校長が出ても平静を装うんだ」
………え、私が?私が電話するんですか!?
二人の視線が私に注がれて、思わず自分を指差す。
彼らは無言で頷いた。
「マジですか。健冶さんが適任だと思うんですけど……」
「マジだ。俺が電話するのは不自然だからな。君の方が警戒されにくい」
「直弥さんでもいい気が……」
「え、オレたちのシナリオではオレたちは幻獣退治に駆り出されるから、昼間の時間は加菜恵さんのとこにお邪魔するっていう感じなんだけどなあ。な?」
「ああ」
「………」
しれっとそんなことを言われて私は言葉を失った。
あの家から逃げている最中の足がぴたりと止まる。
そして、叫びたくなった口を塞いだ。
「お二人はその間何をするんですか。ていうか私は何をしていればいいんですか」
発狂しそうになったけど、グッとこらえて静かに言った。語尾にビックリマークを付けずに聞いてみる。
それに二人もぴたりと止まって振り返り説明をした。
でも、私はそれを受け入れたくなかった。
「怒ってる?」
「怒ってません」
「困ってる?」
「困ってません」
「じゃあ、なんでそんな泣きそうなの?」
「それは……」
それは……こんな、親切にしてもった人たちを疑うなんて嫌だから。
校長先生とはあんまり会うことはなかったけど、廊下ですれ違ったときは挨拶をしたし、加菜恵さんには随分助けてもらった。
なのに潜入調査なんて……
恩を仇で返すようなことしたくない。勝手に疑うなんて厚かましいにもほどがある。
「潔白ならいいんだ。桜田は疑いの目ではなくて、潔白を証明する目で見てほしい。何もなかったならそれでいいんだよ」
「そうそう。オレたちだって疑いたくないんだ。でも怪しいんだから確かめないといけない」
「………わかり、ました」
なんでこんなことになったのか。
ため息はなかなか止まらなかった。