桜の木の下に【完】

その後、加菜恵さんも起きたからお茶をしながら三人でお喋りをした。

たわいもない会話。溢れる笑い声。

でもそれが偽りだったとしたら、と思うと無意識に手が震えてくる。

それを抑えるために片方の手で握ると、少し経てば収まった。

その繰り返しをしながら、苦痛の時間を過ごすとやっと帰る時間になった。

作り笑いは疲れる……健冶さんのポーカーフェイスを見習いたい。


「明日はどうするの?」

「二人が交互に家にいてくれるそうなので、ここにはもう来ません」

「あらそう?楽しかったのに」

「送ろうか?」

「大丈夫です。走って帰りますから」

「また来てね」

「はい!お邪魔しました」


二人に別れを告げて帰り道をダッシュした。

全力で冷たい風の中走り抜ける。

その走り抜ける一瞬の間に、今日の出来事を振り返っていた。

楽しかった。

楽しかったのに……


「はあ、ただいま戻り、ました……」

「おかえり、ののちゃん」

「おかえり」

「…もう、こんな、なんで…………!」


その様子でわかったのか、健冶さんは何も言わずに崩れた私を抱えた。

その胸にすがりついて泣きじゃくる。

それでもなお、健冶さんは無言でぎゅっと抱き締めてくれた。頬に温かさを感じてさらに涙腺が崩壊する。

やっぱり、疑うなんて二度としたくない!

本当だったときのダメージは…お互いに大きいんだから。

< 74 / 122 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop