桜の木の下に【完】
その後、加菜恵さんも起きたからお茶をしながら三人でお喋りをした。
たわいもない会話。溢れる笑い声。
でもそれが偽りだったとしたら、と思うと無意識に手が震えてくる。
それを抑えるために片方の手で握ると、少し経てば収まった。
その繰り返しをしながら、苦痛の時間を過ごすとやっと帰る時間になった。
作り笑いは疲れる……健冶さんのポーカーフェイスを見習いたい。
「明日はどうするの?」
「二人が交互に家にいてくれるそうなので、ここにはもう来ません」
「あらそう?楽しかったのに」
「送ろうか?」
「大丈夫です。走って帰りますから」
「また来てね」
「はい!お邪魔しました」
二人に別れを告げて帰り道をダッシュした。
全力で冷たい風の中走り抜ける。
その走り抜ける一瞬の間に、今日の出来事を振り返っていた。
楽しかった。
楽しかったのに……
「はあ、ただいま戻り、ました……」
「おかえり、ののちゃん」
「おかえり」
「…もう、こんな、なんで…………!」
その様子でわかったのか、健冶さんは何も言わずに崩れた私を抱えた。
その胸にすがりついて泣きじゃくる。
それでもなお、健冶さんは無言でぎゅっと抱き締めてくれた。頬に温かさを感じてさらに涙腺が崩壊する。
やっぱり、疑うなんて二度としたくない!
本当だったときのダメージは…お互いに大きいんだから。