桜の木の下に【完】
*
「明日、早速突入するぞ」
その日の夜、健冶さんは宣言した。
これは確定事項だ。変更も延期もできない。
一刻も早く行動に移さなければいけないことなんだ。
「神楽は恐らく、穂波家にいる」
「家の中にはいませんでした」
「だが、魔方陣の先にある空間にいてもおかしくはない。そうすれば失踪も納得がいく」
「ののちゃんが見たっていう、その空気にいた男はどうする?」
「確保し次第、保護だな。何か知っているかもしれない。暗部に協力を要請したからこちらが負ける心配はないし、俺たちは神楽を優先して探すことになるが」
「やったなののちゃん、幹さん来るって言ってたぞ」
「お父ちゃんが?」
私は目を丸くした。
お父ちゃんは明月に関わることにしか携わらないと思っていたけど、こんなことにも協力するなんて。
やっぱり、お父ちゃんも神楽が心配なのかな。
「こうなった以上、穂波真人は捕まる。連行された後は事情聴取でしばらくは会えないが、時期が来れば話をすることができると言われた」
「……あの、殺されない、ですよね?」
「罪の重さ次第だろうな」
はっきりと否定してくれなかったことに私は悲しくなった。
神楽が血相を変えて飛び出して行ったんだから、明月に関わる何かをしていたら刑罰が重くなるのはわかっているつもりだ。
でも、やっぱりよくわかってない。
なんでこんなにも、二人は深刻そうにしているのか、明月に関わったらなんで捕まらないといけないのか、と。
命を狙われているっていうのはわかってるけど、幻獣に襲われたらどうなるのかは知らない。
精神が持っていかれる、とか、身体が耐えられなくて死んじゃう、とかは聞いた。
でも、皆幻獣と契約を結んでいるじゃないか。明月と契約を結んでもそんなに問題にはならないんじゃないか……
「どうしてなんだろう……」
と、お風呂で考えてみたけど、答えはふとした瞬間にポンと頭に浮かんできた。
健冶さんの片目の原因は明月だ。
明月は敵。恐ろしい敵なんだ。
私はそのことをきちんと頭に刻み込んだ。最近は襲われてないからその恐怖を忘れてる。だからって油断しちゃいけない。
明日になれば、また危険と隣り合わせだ。