桜の木の下に【完】
「俺が先に入るから、二人は後からついてこい」
「わかりました」
「ののはお留守番だ」
「そんな……!私も行く!」
離れた私の肩を掴みながらお父ちゃんは二人に言い放ち、私を見ないでそう告げた。
抗議しようと身体に力を込めると、グッと肩を強く押された。
見上げると、お父ちゃんの目には何も感情が込められていなかった。
知らない、こんなお父ちゃんなんて知らない……!
「お父ちゃん!なんで!」
「出発だ」
その一言が静かに響くと、お父ちゃんの背後にたくさんの人が闇から現れた。
男女問わず、年齢もバラバラの先鋭たち。
これが……暗部。
「ごめんなさい、ののちゃん」
「早菜恵さん?……あの、手を…」
「私も本当は行きたい。でも、行けないんだよ」
早菜恵さんは一緒にいたあの男の人と遅れて現れると、私の腕を掴んだ。
その力のこもった手はわずかに震えていて、振り払おうと思えば振り払えるような、そんな儚さを感じた。
早菜恵さんも戦ってるんだ、と彼女の目を見て思った。
加菜恵さんがどうなってしまうのか、わからないから……
私が早菜恵さんに気を取られているすきに、暗部は散り散りになり、三人は颯爽とこの場を去ってしまった。
残されたのは私たちと、その護衛役の数人の暗部だけ。
寒空の下、私たちはざあっと一際強い風を一身に浴びながら、彼らが消えて行った方向をただ見つめていた。