桜の木の下に【完】
「そっか…ののちゃんも悩んだんだね」
「早菜恵さんも悩んだんですよね」
「そうだねー…このココアもね、勧められたんだよ。そうカリカリするな、って」
懐かしむように彼女はココアの水面を眺めている。
私のカップはもうからっぽだけど。
「ココアってなんか落ち着かない?大学受験のときも飲んでばかりで太っちゃったけど」
「…私も飲み過ぎには気をつけます」
「ぜひそうして!」
と、必死に念を押されて笑ってしまった。
それから、私がカップを洗って居間に戻ると、水の音で今まで気づかなかったけど外が騒がしいことに気づいた。
そう言えば早菜恵さんもいない。
玄関に向かうと早菜恵さんがちょうど戻ってくるところだった。
「あ、ののちゃん!疾風が掛軸持ってきたんだって!これにののちゃんの幻獣が封印されてるんじゃないかな!」
私はしばらく、その言葉の意味が理解できなくて靴に片足を突っ込んだままポカンと口を開けていた。