桜の木の下に【完】
*
「はあー…悠斗さんが見つかって良かったです」
「でも神楽ちゃんは、まだ……」
疾風が悠斗さんのパートナーだと知ったとき、膝から力が抜けてぺたんと床に座ってしまった。
神楽が見つかっていないのは残念だけど、絶対に見つかると信じてる。
それよりも加菜恵さんたちを案ずる早菜恵さんが気になったけど、本人が触れないからそっとしておいた。
早菜恵さんに助けてもらいながらなんとか居間まで戻り、暗部の人から掛軸を受けとる。
床にそれを広げると、夢に出てきたままの絵があって少し怖かった。
またあの二つの赤い目がこちらを見ないかと。
「これは桜の木なんです」
「この絵が?」
「はい。夢に出てきたとき、花が咲いて桜色になりました。あと、桜の木の下に封印されてるから起こしてほしいと、もともと言われていたんです」
「それを聞いてずっと探したんだよね?」
「そうなんですけど、まさか絵だったとは……」
「封印って、どうやって解くの?」
「………」
確かに。
「この手の物は使うときに血が必要だって神楽が言ってたんですけど、ただ垂らせばいいんでしょうか?」
「私に聞かれても困るなあ」
自分で指を切るのは嫌だなと思ったけど、たぶん私の血じゃないと封印は解けないんだろうな、と思ったからその瞬間は目を瞑った。
……よし、痛くない痛くない痛くない。
「口に出してそんなに連呼されると私まで痛くなっちゃう…」
「……声に出てましたか」
肩に手を置かれて目を開けた。
血が滲んでいる指を桜の木の下に押し当ててみる。
紙が血を吸って赤くなっていく。
ちょっとだけ切ったはずなのに、その染みはみるみると広がっていった。
「ちょ、なんでこんなに吸うの!?」
早菜恵さんの叫びが遠くて聞こえたような気がしたけど、なんだかクラクラとして目を閉じてしまった。
『やっと会えたな』
男の子の笑ったような声が耳元で聞こえた気がした。