桜の木の下に【完】
*ののside*
記憶の扉を開けてはどっと流れ込む映像にだんだんと頭がクラクラとしてきた。
神楽と出会ったときの記憶も見た。
でもやっぱり、第三者のような気分だ。そのときの自分の心情までは思い出せない。
何かが足りない。決定的な何かが。
欠けたピースはどこにある?
『探しても無駄だぜ?感じろよ』
見かねたのか、男の子の声だけが響いて諭してくれた。
でも…感じてるは感じてる。
一つだけ、ものすごく開けたくなる扉がある。でも鍵が掛かっていて開けられないのだ。
私はずっとお預け状態で、鍵を探すためにこうやって延々と映像を見続けているわけだけど、絶対に男の子の仕業だと思う。
最短ルートは設けられていない。
「あー…」
疲れた。
英単語を暗記しているときのような、脳ミソが情報を受け付けていない感じだ。
ズキズキとするこめかみを指で押さえる。
それでも、私は次々と記憶を紐解いていった。
バースデーケーキを吹き消す私。ろうそくが三本あった。お母ちゃんにケーキを切ってもらい、ご機嫌な感じで口のべったりとクリームをつけながら食べている。
公園で遊ぶ私とあの男の子。追いかけっこをしているようだが、男の子はすいすいと逃げてしまい追い付かず泣き出してしまった。
家のビニールプールでびしょびしょになる私。ホースの水をお父ちゃんにかけてもらって喜んでいた。
記憶の順番はバラバラで季節もバラバラだけど、家族の結束はバラバラではなかった。
お祖父ちゃんがいて、お父ちゃんがいて、お母ちゃんがいて、私がいて……
そして、あの日がやってきてしまった。