桜の木の下に【完】
*ののside*
「じゃあ、その後のことは何も覚えてないってこと?」
「そう。もしかして、あたし何かした?」
「何もしていない。眠っていただけだ」
「そう、ですか……」
神楽は腑に落ちないような顔でお父ちゃんの言葉に頷いた。
有無を言わさないお父ちゃんの言葉には重みがあって、それ以上は何も聞いてはいけないような感じだった。
でも何かあることはわかってた。
神楽の問いかけに、健冶さんがぴくりと反応していたのに気づいてしまったから。
「ろくに情報を得られずすみません……」
「そんなのはいいんだ。神楽が戻って来られたことに意味がある。これから挽回すればいい」
「…ありがとうございます」
神楽は俯いて泣きそうな声で返事をした。
もしかしたら怒られたり諭されたりすると考えていたのかもしれないけど、お父ちゃんはそうはしない。
まずは安否を優先する。
転んでも、私はズボンが破けたことを謝っているのに傷を優先しながら慰めてくれるし、洗剤を溢してもそれをそっちのけで目に入ってないかって心配してくれる。
親としては当たり前かもしれないけど、それがものすごく嬉しかった。
「悠斗はまだ目を覚まさないのか?」
「はい、まだ……」
お父ちゃんは神楽に気を使って、直弥さんに話しかけた。彼は悔しそうな顔をして残念そうに首を横に振った。
悠人さん大丈夫かな…ただの疲労だけだといいんだけど。
もし人為的に眠らされているんだとしたら、このまま放置しておいたら命に関わる。
私も肩を落としたとき、お父ちゃんが何かに気づいて立ち上がり襖を開けた。
そこには早菜恵さんと一緒にいた暗部の男の人が、膝をついてお父ちゃんを見上げていた。
「主、明月の居どころを掴みました」
「場所は?」
お父ちゃんがしゃがむと、男性は短く耳打ちをしサッとまたいなくなってしまった。
何かを聞かされたお父ちゃんは難しい顔をしている。
「場所はどこなんですか?」
直弥さんが身を乗り出して聞いた。
その答えに、私たちは一瞬にして凍りついた。
「………君たちの一族が亡くなった山だ」