プレゼント
私は呆然とスマホを下ろす。


面倒……。


きっとアレは本音だろう。


何回もドタキャンを味わい、その度に埋め合わせすると言われ、でもやっぱり会えなくて……。


寂しいと思っているのは、私だけなのかもしれない。


賑やかな喧騒を背中に、私は歩き出した。


カランカラン……。


優しいベルの音が響き、フワッと甘い香りが漂う店内。


『パティスリー カノン』


なんでもオーナーが、パッヘルベルのカノンが好きでつけたみたい。


私も、優しい曲であるカノンは大好きだ。


大学に通っている時にアルバイトしていて、皆が望んでくれて、そのまま就職した。


名前と同じで、優しい美味しさのケーキが大好きだったし、働いている人達も皆好きだったから、とても嬉しかった。


「いらっしゃい、美樹ちゃん。」


オーナーの茂樹さんが迎えてくれる。


「休みだったけど、カノンのケーキ食べたくなって来ちゃいました。」
そんなのは嘘。


1人でいたくなかっただけ……。


今日は平日で、時間は午後3時。


混んでいる時間を避けて、私はやってきた。


ショーケースには、見た目も可愛いスイーツが、たくさん並んでいる。


私は、スノードームとストレートティーを頼むと、店内の奥にあるイートインスペースの1番奥のテーブルに座った。

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