金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
里見先生も少し小走りになって私の所へ来てくれる。
私はまだ驚きつつ、里見先生に聞いた。
「…今日、あのあれ、えっと…図書室大丈夫なんですか?」
日本語が不自由な私に、里見先生は優しく笑う。
「今日はね、ちょっと家の用事で早く帰らなくちゃいけなくて。他の曜日の司書の先生と、途中で交代する予定だったの。」
…そうなんだ、と私はホッとした。
第2学習室の自習が無くなったとか、今日は図書室空いてないとか、そういうことかと思った。
そこで私は内心首を捻る。
…というか、例えそうだとして、なんだって言うんだ私。
なんで私が焦ってるんだ。
どうせ行かないつもりだったから、関係ないのに。
今度は里見先生が首をかしげた。
「…琴子ちゃんこそ、今日どうしたの?来ないなんて珍しいじゃない。」
「あっ、先生に雑用頼まれちゃって…。」
そう言おうと思った。
でも、出来なかった。
嘘をつくわけじゃないんだから、と自分に言い聞かせたけど、罪悪感と小指の爪ほどの正義感によって拒まれる。
大西先生にはあんな簡単に誤魔化せたのに、里見先生には出来ない。
喉が詰まる。
言いたいのに、言葉にならない。
…あぁ、これダメなやつだ。
ぼんやりする視覚で、直感した。
このままいくと、思考がこんがらがって、訳がわからなくなって、感情がオーバーヒートする…。
「…琴子ちゃん。」
幼稚園児にでもかけるような声に、ハッとした。
里見先生は、私の右手をそっと握っていた。
包み込むような目線が、私を正面から捉えていた。
「…私で良かったら、話してみない?」
里見先生の、お見通しみたいな眼差しと優しい申し出に、私はゆっくり頷いた。
私はさっきまで作業をしていたスペースに向かった。
里見先生が座ったのは、さっきまでりっちゃんがいた席。
偶然だけど、不思議な気持ちになった。
私は自分がさっき座ってた席に座った。
そして、全部を、里見先生に話した。
上手い言葉になんて出来なかったし、支離滅裂、私のごちゃごちゃした思考回路をそのままポンと出したようなもので、かなり酷い内容だった。
でも、里見先生は静かに、耳を傾けていた。
苦しい胸の内を全て吐露してしまうと、私は幾分かスッキリした。